MAHA構想とフッ素添加禁止：歯科から見た課題

ロバート・F・ケネディ・ジュニア（RFK Jr.）は、環境保護活動家としての長い経歴を持ち、近年は米国の健康政策にも積極的に関与しています。彼が推進する「MAHA（Make America Healthy Again）」構想は、慢性疾患の増加を防ぐため、食品添加物や化学物質への曝露を減らし、国民が自ら健康を守るための選択肢を持つことを重視するものです。

その中核政策のひとつが、公共水道へのフッ素添加を停止するという強い方針です。RFK Jr.は、フッ素を「環境を通じて市民に強制的に摂取させる薬」と位置づけ、高濃度での知能低下や骨・甲状腺への悪影響の可能性を懸念しています。こうした姿勢は「自己選択の尊重」や「化学物質への警戒」といった現代的な健康志向に根差しています。

しかし、歯科領域における長年のエビデンスでは、適正濃度のフッ素は安全であり、低コストかつ有効な虫歯予防手段であることが示されています。特に経済的に厳しい家庭の子どもたちにとって、水道水フッ素化は格差を埋める重要な公衆衛生施策であり、撤廃はう蝕の増加を招く可能性が高いと考えられます。

そのため、もし政策としてフッ素添加を禁止するのであれば、必ず代替措置が必要です。たとえば、家庭での効果的な歯磨き指導、学校でのフッ素洗口、フッ素入り歯磨剤やジェルの利用促進など、個別ケアの拡充が不可欠です。これらを伴わなければ、長期的に国民の口腔健康が損なわれるおそれがあります。

健康政策は、科学的根拠と現場の声に基づき慎重に設計されるべきです。MAHA構想においても、歯科医療専門家との継続的な対話を通じて、子どもの未来を守る包括的な予防策を構築することが求められています。RFK Jr.の理念である「国民の健康のための改革」を実現するには、歯科領域を軽視しない姿勢が不可欠です。

九段北の丸歯科医院